特許事務所で働く弁理士の仕事内容【中の人が分かりやすく解説】

知財業界に興味を持った方の多くが持つであろう疑問として「弁理士の仕事内容」が挙げられると思います。

弁理士という資格もマイナーですが、さらにその弁理士がどこで何をしているのかは一般的には知られておらず、知る人ぞ知る世界になっていると思います。特に、特許事務所の内部は外から見えづらいです。

かくいう私も最初は特許を取る仕事でしょ程度にしか分かっていませんでした。

今はネットの様々なサイトで解説されていますが、弁理士の仕事が手続きの仕事であるため、どうしても専門用語で説明することになり、業界外の方には分かりづらくなっているような気がしています。

そこで、今回は分かりやすさ重視で特許事務所での弁理士の仕事内容について緩い表現でデフォルメして解説してみようと思います。

目次

弁理士の仕事内容@特許事務所

主な仕事は出願中間処理で、人によっては鑑定もやります。

出願と中間処理は定常的にあるので日々こなす基本業務です。定常的にあるといっても内容は各案件で異なりますし、分野も異なることもあります。なので、ルーティンワークのように発生しますが、内容は毎回違うので飽きるということはないと思います。反対に、仕事に慣れても毎回内容が異なるので気が抜けません。

鑑定は特許事務所によってはほとんどないところもあります。鑑定は特許権を侵害しているかどうかの判断なので、外国に比べて訴訟が少ない日本では、一般的な特許事務所だと滅多にないと思います。

と、既に専門用語が多くてよく分かりませんよね。順を追って1つずつ解説していきます。

出願

出願は、発明を特許にしてもらうために特許庁へ申請するお仕事です。

基本的には下記のような流れです。

・クライアントから依頼を受ける

・発明内容について面談する

・特許庁に出す文書を作って提出する

クライアントから依頼を受ける

まず、事務所がクライアントから依頼を受けます。

大抵の場合、依頼の形式は決まっているので、その形式に沿って依頼が来ます。そして、事務員さんが依頼を受ける処理をしてくれます。

事務所の弁理士は、事務所が受けた案件の担当を割り当てられます。案件の内容やスケジュールを考慮して割り当てられることが一般的ですが、繁忙期は個別の事情は無視されて割り当てられたりします・・・。

なお、優秀な弁理士はクライアントから指名される場合もあります。クライアントから信頼を得ている弁理士は、自然と仕事がいただけます。勤務弁理士も給与が出来高と連動していることが一般的なので、指名はありがたいです。その反面、指名だと多忙の場合も断りづらいこともあります。

発明内容について面談

次に、発明者から発明の内容を教えてもらうための面談を行います。

事前に発明の内容を記載した資料をもらえることが一般的ですが、この資料の充実度は発明者や企業知財担当者に左右されます。関係する技術からしっかり記載されているものもあれば、紙ペラ1枚で数行というものもあります。

また、技術的に難しい案件は事前に勉強しておきます。そうしないと面談でチンプンカンプンとなり、建設的な議論や確認ができません。最悪の場合、発明者にこの人大丈夫かと心配されてしまいます。

発明者の信頼を損なうと、面談は元より、作成した文書のチェックなど後々の仕事においてもやりづらくなります

また、想定するビジネス・事業も可能な範囲で教えてもらいます。どんな事業をやるかで必要な権利も変わるからです。例えば、電池の発明だとしても、電池そのものを売るのか、電池を搭載した電気自動車を売るのか、電池の状態を監視するサービスを売るのか、によって、権利の対象が電池なのか、車なのか、ソフトウェアなのか、が変わり、文書の内容も変わります。

特許庁に出す文書を作成&提出

面談が終わったら特許庁へ出す文書を作成します。

文書はいくつかあって、基本的には願書、明細書、特許請求の範囲、図面、要約書です。この中で重要なのが明細書、特許請求の範囲、図面です。

明細書は、指定される形式に沿って発明の内容を文章で記載します。図面は、発明を図で説明した方が分かりやすい場合に作成します。例えば、物の構造や形状の発明は、文章のみだと分かりづらく、図があった方が理解しやすいです。

ただ、上の2つの文書は分かりやすいと思いますが、難しいのは特許請求の範囲と思います。特許請求の範囲では「取りたい権利」を記載します。

「は?どういうこと?」と思った人もいらっしゃると思います(笑)

明細書には発明の内容を具体的に記載する必要がありますが、どうしても記載できるのは一例になってしまいます。すべての具体的なパターンを網羅するのは不可能だからです。

例えば、テレビのリモコンの発明で、チャンネルボタンが12個のリモコンを明細書に記載したとします。

しかし、将来的にチャンネル数が増えてボタンが15個になるかもしれません。明細書に記載した発明のみに特許権が与えられるとしたら、チャンネルボタンが12個以外のリモコンには特許権が使えないことになってしまいます。

そこで、明細書とは別に特許請求の範囲が用意されています。特許請求の範囲には、取りたい権利として、発明のポイントを記載します。

例えば、複数のチャンネルボタンがついているリモコン、等と記載します。このように記載しておけば、ボタンが12個でも15個でも特許権が使えることになります。(この内容で権利が取れるかは別問題ですが)

特許庁へ出す文書については奥が深いのでここではこの辺りで留めておこうと思います。

文書が作成できたらクライアントへ確認してもらって特許庁へ提出します。提出自体は、事務員さんにやってもらうのが一般的だと思います。

ちなみに、企業における出願の仕事については下記記事で解説していますので、興味があればご覧ください。

中間処理

中間処理は、出願した発明に対する特許庁からの返答に対応するお仕事です。

出願したら、はい特許、というわけではなく、特許にしてよいかどうか審査されます。また、審査してくださいと特許庁へ請求してから審査が始まります。そして、審査結果が出るのは請求から1年くらいかかります。

なので、自分が担当した出願の中間処理が来るのは出願から数年後というのが通常です。

この中間処理の流れは、典型的には下記のようになると思います。

・この発明は特許にできませんという通知が届く

・通知に対して反論を検討してクライアントへ提案する

・反論文書を作成して特許庁へ提出する

特許にできないという通知が届く

出願したら特許庁で審査されます。その審査結果がOKであれば特許になります。

ところが、大抵の場合、審査結果はNGとなり、特許にできませんという通知が理由付きで特許庁から届きます。この通知を拒絶理由通知と言います。この「拒絶」という表現にあまり良い印象を持ちませんよね。実際、あまり特許の事を知らないクライアントの中には怒ったりしてしまう人もいるようです。

でも、この通知が来たらかといって即終わり(ゲームオーバー)ではありません。この通知に対しては反論することができます。なので、仮の審査結果のようなものです。

なお、自分が担当した出願であれば、自分が中間処理も担当するのが通常です。ただ、未経験者や中途入社の人の場合は、他の人が出願した案件を担当することになります。

反論を検討してクライアントへ提案

拒絶理由通知が来たら、それに対して反論できるかどうかや反論材料を検討します。

そもそも審査官の指摘が正しくない場合は、それを分かりやすく説明する必要があります。また、審査官の指摘が正しい場合は、取りたい権利の内容(特許請求の範囲)を修正して指摘を回避する必要があります。

この時の説明や修正において必要なのが特許要件の知識です。簡単に言うと、特許になる条件ですね。特許になる条件は新規性や進歩性などいくつかありますが、それらを満たすことによって特許になります。

拒絶理由通知においても特許要件のどれがNGなのかを教えてくれます。なので、反論する時には、NGと指摘された特許要件がNGではない理由を説明する必要があります。

この特許要件が複雑で難しいので弁理士という職業が存在するとも言えます。

ここが弁理士によって差が出る所で、腕の見せ所になります

通知に対する反論が検討できたら、クライアントへ提案します。特に特許請求の範囲を修正する場合には、取れる権利が変わってしまうのでクライアントにしっかり確認を取る必要があります。

ちなみに、どうしても反論が難しい場合がありますが、その場合は諦めることを提案することもあります。見込みがないのに続けても費用がかかるだけでクライアントにとっても良い事がないためです。

反論文書を作成して特許庁へ提出

反論案に対してクライアントからOKがでれば、文書を作成して特許庁へ提出します。この文書を意見書といいます。また、文書を修正する場合は補正書という書類も提出します。

文書が提出できる期間は法律で決まっているため、その期間内に提出する必要があります。

出願の場合は、早いほどよいというくらいで期限はありませんが、中間処理の場合は、絶対に守らないといけない期限が存在します。これを過ぎると原則的には文書が提出できず、ゲームオーバーになります。

ビジネスにおいては普通の仕事においても期限はもちろん大事だと思いますが、こと弁理士の仕事においては、期限を守ることは何よりも重要になります。

また、文書の提出自体は、事務員さんにやってもらうため、期限ギリギリになると迷惑をかけることになります。期限ギリギリが常態化していると事務員さんから嫌われます。これは特許事務所で働く上で致命的です。事務真さんには何かとお世話になりますので、やむを得ない場合を除いては余裕のある期限でお願いするようにした方が良いです。

期限は本当のデッドラインと内部的な締切の2つを設定しておくことをおススメします

ちなみに、文書を提出して反論してもやはりNGである場合は、拒絶査定という仮のゲームオーバーの通知が来ます。これが来ると、格ゲーのコンティニュー画面のように、続けるか諦めるかを選択することになります。

継続する場合は、審判という敗者復活戦のような制度を利用します。審判では、審査官とは別の人に改めて見てもらうことができます。そこでOKが出れば特許になります。

ただし、審判には別途お金がかかりますし、そこそこ高いです。なので、継続するか否かはクライアントにとっての重要性やお財布事情によることになります。

鑑定

鑑定は、特許権を侵害しているかどうかを判断するお仕事です。

特許権を侵害しているかどうかは、特許請求の範囲で記載されている権利の内容と、侵害している(と指摘された)製品と、を比較して、その製品が特許請求の範囲の内容に含まれるかどうかで判断します。

鑑定の仕事は、典型的には、クライアントが他社から「あなたの製品は当社の特許権を侵害しているのでお金払うか事業を停止してください」と言われた時に発生します。なので、鑑定の結果は、クライアントに大きな影響を与えることになります。

小説やテレビ番組の「下町ロケット」で佃製作所もナカシマ工業から特許権侵害で訴えられてましたね。

そのため、鑑定の仕事は、出願や中間処理と比べてかなりプレッシャーがかかります。鑑定結果に誤りがあるとクライアントに損失をもたらしかねませんしね。

反対に、非侵害との結果であればクライアントから結構本気で感謝されますので、やりがいになります。とはいえ、正しい鑑定の結果が侵害との判断になることも当然ありますので、心苦しい場合もあります。

滅多に発生しませんので、鑑定の仕事を得意としている弁理士は数少ないと思います。

まとめ

今回は、特許事務所勤務の弁理士の仕事についてザックリ解説しました。

事務所の内部事情はなかなか外からは分からないと思いますので、なんとなくイメージを持っていただけたらと思います。

なお、1つ1つの仕事は奥が深いので、機会があればもう少し深堀りして解説する記事を作るかもしれません。

特許事務所への転職を考えている人や興味がある人にとって参考になれば幸いです。

ではでは。