特許出願数から推測するテック企業の将来

おはこんばんちは。りってるです。

先日の記事「視点の異なる業界研究」では「研究開発」についてお話しました。

その研究開発についての情報の1つが特許情報でした。

今日は、その特許情報として特許出願数から企業の将来を考えてみようと思います。

(1)そもそも特許とは
(2)特許出願から分かること
(3)特許出願数と業績の関係
(4)実例:日系自動車メーカー3社を比較

目次

そもそも特許とは

特許とは、特許法で保護される知的財産権です。

発明を独占的に実施し、他者の実施を差し止めることができます。

日本では、たまに訴訟でニュースになる程度ですが、

米国では、訴訟は日常茶飯事、なので企業は皆しっかり対策しています。

ベンチャーでも事業と密接な部分は特許をしっかり押さえています。

ちなみにベンチャーキャピタルも特許の有無でベンチャーへの評価が変わります。

 

例えば、あの有名なアマゾンのワンクリック注文も特許が取られています。

1-Clickワンクリック または ワンクリック購入とは1回のクリックで商品のオンライン購入を可能にする技術である。ワンクリック購入にはユーザー自身が予め支払い情報を入力しておく必要がある。

出典:Wikipediaより抜粋

出願*は1997年です。
(*出願=特許庁に申請することです)

創業が1994年、サービス開始が1995年なので、創業まもなく出願したことになりますね。

というくらい特許は大事、というのを最初に述べておきます。

 

特許出願から分かること

特許出願は出願後1年6ヶ月で公開されます。

権利を付与する代わりに、発明の内容が公報として公開されます

この公報が重要で、これを読めば企業の動向を推測することができます。

例えば、富士フイルムの例では、フィルムカメラが主な事業だった時代に、デジタルカメラの出願が出されていれば、将来デジタルカメラの事業をしようとしている、という推測ができます。

もちろん、1年半遅れなのでタイムラグはありますが、企業が積極的にアピールしていない場合に将来の動向を知るには、こういった情報が役立ちます。

しかも、その公報の数が多いほど、すなわち出願数が多いほどその分野に力を入れていることが分かります。

特許は1つだけ持っておけばOKというものではありません。

1つ特許があっても、他社はそれを避けて製品・サービスを作ろうとしてきます。

権利行使されたくないですからね。

だから、避けられないように群として特許を作ります。

いわゆる特許ポートフォリオというやつです。

そのため、力を入れる分野は必然的に出願数が多くなります。

 

特許出願数と業績の関係

では、特許出願と業績には関係性があるのか?

完全な相関があるとはいえませんが、ある程度の相関はあると思います。

なお、特許出願と業績にはタイムラグが生じます。

なぜかというと、特許出願は将来を見越してなされます。

なので、それが業績に現れるのは特許出願した発明を商品やサービスに載せた後になります。

昔は商品・サービスに載るのは、早くて3~5年後、通常だと5~7年後といわれていました。

最近だとソフトウェアの発明が多いので実装が早く、1~2年後というケースもあります。

 

というようにタイムラグは生じるとして、特許出願と業績にはどのような関係があるのか?

先ほど述べたように、技術(テクノロジー)を売りとするテック企業にとっては特許は虎の子です。

特許がなければ競合他社との競争に敗れ、市場から退場させられる可能性が高まります

またまたアマゾンの例で恐縮ですが、先ほど出たワンクリック注文の特許。

あれがなければ実はアマゾンは潰されていたかもしれないのです。

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当時、アマゾンは書籍のネット通販を始めたばかりでした。

そこに、米国屈指の巨大書店バーンズ・アンド・ノーブル社がワンクリック注文に似た機能を有したサービスを始めました。

それに対し、アマゾンはバーンズ・アンド・ノーブルを相手に特許権侵害で訴訟を提起します。

この時、アマゾンが特許を取っていなかったら、バーンズ・アンド・ノーブルのいいようにワンクリック注文の技術が使われてしまうところでした。

特許によってそれを阻止できたわけですね。

—-

このように、特許は守りの力であるとともに、まねされるかもしれない貴重な技術を保護するもの、ともいえます。

すなわち、特許が多い=貴重な技術を多く保有する=競争力がある、ともいえます。

なので、特許が多い=将来に業績が上がりやすい(または維持しやすい)といえるのではないかと考えています。

 

実例:日系自動車メーカー3社を比較

特許出願数と業績の関係を実例で分析してみました。

日本の主要な産業の1つは自動車産業です。

なので、今回は自動車メーカーのトップ3社を見ていきたいと思います。

具体的には、トヨタ自動車(トヨタ)、本田技研工業(ホンダ)、日産自動車(ニッサン)です。

 

特許出願数の比較

まずは特許出願数を比較してみます。

上のグラフは2011年~2020年の特許出願数の推移を示すグラフです。

なお、これは2020/10/10時点の情報ですので、2020年の件数は上振れします。

 

これを見ると、トヨタはさすがというべきか、他の2社を大きく引き離していますね。

概ね5000件以上をキープしています。

2位のホンダは、2011年から2016年にかけて漸減していますが2000件前後をキープしていますね。

3位のニッサンは、一度1000件割れしてから2012年~2017年は1000件前後でキープしていたのが、2018年以降は下落傾向といったところでしょうか。

ちなみに、2010年から2011年で各社とも出願数が激減していますが、理由はリーマンショックです。

 

業績の比較

次に業績を比較します。

今回は売上高で比較してみました。

こちらもトヨタの独り勝ちですね。

ホンダとニッサンについては2013年にホンダが上回って以来、ホンダ2位、ニッサン3位が定着しています。

ニッサンはいろいろゴタゴタがあったのも影響がありそうですが。

ただ、ホンダとニッサンの差は開いてきています。

 

特許出願数と業績

最後に、企業ごとに特許出願数と業績を同時に見ていきたいと思います。

まずはトヨタ。

次にホンダ。

最後にニッサン。

こう見てみると、特許出願数を維持しているトヨタ、ホンダは業績をキープできているといえそうですが、特許出願数を維持できず再び下落しているニッサンは業績も下降し始めているように見えます。

もちろん、出願数が多い=技術力がある、ことが多いのですが、必ずそうだともいえません。

ただ、特許出願にはコストがかかりますので、技術力の面ではなく、企業体力すなわち財務健全性を反映することもあります。

資本に余力がなくなってくると、出願数を減らしてコスト削減を図ることもあります。

元々ニッサンは資本に余力がある方ではありませんので、技術力云々の前にそもそも財務が相当に厳しいという見方もできそうです。

そうすると、ニッサンの復活は直近では厳しいかもしれません。

というように、業績のみでは見通せない部分も特許出願数という別の情報と組み合わせることで、業績の良化・悪化が将来的に続くのか、一時的なものなのかを推測する1つの方法となり得ます。

 

まとめ

今回は、特許出願数と業績の関係について分析してみました。

この情報だけですべて見通せるわけではありませんが、業績の傾向の持続性や技術力のおおまかな把握には使えそうなイメージです。

ただ、より具体的な転職活動や投資判断のためには情報が少々アバウトかなとも思います。

なので、今回は踏み込んでいませんが、例えば、特許出願の内容を業界ごと、企業ごとに分析をしてみようかなと思っています。

それにより、企業ごとの強み・弱みを把握したり、将来の動向を推測したりすることができそうです。

ここまでできれば、具体的な転職活動などにも使えそうかなと思います。

何かの参考になれば幸いです。

ではでは。

2022年2月25日転職・独立分析,業績,特許

Posted by りってる