【転職を考えてる人は必見】企業知財の仕事とは?~出願編~
異業種に転職しようとする場合、その業界の仕事をなかなかイメージできないと思います。
私も知財業界に飛び込む際、どんな仕事なのか、自分もできそうなのか、いろいろ不安でした。今だとまずはネットで調べる、ということになると思います。
ただ、ニッチな業界だとネットにもあまり情報がありません。その業界で実際に仕事している人から情報が信頼性高いのですが、ニッチな業界だとそれもレアになります。
知財業界もニッチな業界です。一昔前はネットにもほとんど情報がなく、情報源は書籍でした。今は何人かの方がブログなどで紹介されていますが、他業種と比べてサンプル数はかなり少ないです。
私は特許事務所や企業知財の経験がありますので、知財業界に興味がある人に生の情報をお届けできたらと思っています。
その中でも今回は企業知財の仕事について解説していきたいと思います。
企業知財の仕事とは
企業知財の仕事は多岐にわたります。
まず、そもそも対象となる知的財産権によって仕事内容が異なります。特許権、意匠権、商標権、著作権など。営業秘密も不正競争防止法で保護される知的財産です。最近だとビッグデータやAIの台頭でデータも保護対象となりました。
なので、全てを解説することが難しいです。この中でもメジャーなのはやはり特許であり、私の専門でもあります。そこで、今回は特許に絞ってお話ししたいと思います。
特許の仕事はざっくり言うと下のような内容です。
・特許戦略立案
・発明発掘★
・先行技術調査★
・日本出願★
・外国出願★
・中間処理
・特許リスク対策
・権利活用
大体この記載順に仕事が流れていくイメージです。
ちょっと項目が多いですね。なので、今回は★のついた出願部分について解説します。
発明発掘
まず発明発掘です。
その名の通り、まだ見ぬ発明を発掘します。技術者から製品や技術の内容をヒアリングして特許になりそうな発明を見出す仕事です。
パターン1:技術者から相談
パターン2:技術者に働きかけ(戦略ベース、ブレスト)
技術者から相談
技術者から相談がくるパターンは昔は多かったそうです。技術者が自らが開発した製品や技術について特許取れないか?と相談が来ます。
特許に対して意識が高い人たちは今でも相談にきます。意識が高い人たち=事業化したときのリスクを考えている人です。昔に事業で失敗したケースが多いようです。今はこういう人が減っている傾向にあります。
このパターンだと既に特許のタネ(原石)がありますので、タネを育てます。
具体的には、タネから技術の特徴となる部分を取り出します。その技術だとどんな良い事があるのか、どんな課題が解決されるのか、従来の技術とはどこが違うのか、などいくつかの観点で根掘り葉掘り聞いていきます。
特徴が取り出せれば発掘は完了です。実際の仕事では並行して後述の先行技術調査も行うことが多いです。
技術者に働きかけ
こちらのパターンではこちらから技術者に新たな技術の検討を働きかけます。こちらは最近多いパターンです。
こちらは下記のような流れで進むことが多いです。
・事業戦略・知財戦略に基づき将来の技術テーマを議論
・テーマに基づいて技術手段を議論
・出てきた技術手段から発明を発掘
まず、将来の技術テーマの議論ですが、これが一番ハードルが高いです。戦略で想定される事業においてどういう技術が将来必要になりそうかを議論します。事業も技術も知らないとできません。
今の企業知財に求められるのはこのフェーズのスキルだと感じてます。このレベルの議論は少なくとも技術リーダークラスの方と行います。
次に、技術テーマが決まれば、各技術者と具体的な技術手段について議論します。よく使う手法がブレーンストーミングです。
最後に、具体的な技術手段のアイデアが出たら、あとはそのアイデアの具体化(実装手段)の検討です。アイデアのままだと特許になりませんので実装手段まで落とし込みます。このとき並行して前述の特徴の抽出や後述の先行技術調査も行います。
これらの発明発掘の段階ではコミュニケーションが不可欠です。
コミュニケーションのコツについては下記記事でも取り上げていますので、良かったら合わせてご覧ください。
先行技術調査
発明がいかに素晴らしく思えても特許になるとは限りません。
なぜかと言うと、他社が先に世に出していると特許にならないからです。いわゆる新規性の問題です。
特許になる要件として新規性が求められます。(正確には他に進歩性などの要件も求められますが、ここでは省略します。)
その新規性を確かめるために先行技術調査を行います。
調査の進め方
調査の進め方は2パターンです。
・自ら調査する
・他部署や外部に委託する
自ら調査する場合は、調査ツールを使って調査します。いくつかの会社が調査ツールを提供してくれていますので、そのツールを使って調査します。もちろん有償です。(会社費用ですが)
委託する場合は、自社内に調査部署がある場合は、調査部署へ依頼します。外部の調査会社に依頼する場合もあります。
自ら調査する場合は、調査スキルが必要になります。また、委託する場合も基本的な調査スキルがあると意思疎通がやりやすいです。とはいえ、そこまでの正確性は求められませんので自分でチャチャっとやってしまう方が早くて楽です。
日本出願
抽出した発明が特許性ありそうだとなったら出願します。
出願とは、特許庁に特許の申請をすることです。
出願でやることは下記です。
・書類作成
・特許庁へ出願
申請には、下記の書類を提出する必要があります。
- 願書
- 明細書
- 特許請求の範囲
- 図面
- 要約書
これらの書類は、出願人である自分たちで作成してもよいのですが、通常は特許事務所に依頼します。
理由は、作成している時間がないから。もとい、書類は法律文書で専門的であるから、です。
書類作成が難しい
特に、特許請求の範囲は特許権の権利内容を決める重要な文書である一方で、誰にでも分かるように正確に記載する必要があります。
この「誰にでも分かるように正確に」がやっかいなのです。
日本語は「誰にでも分かるように正確に」書こうとするとかなり難しいです。こそあど言葉が代表的ですが、日本語は指示代名詞を用いることが多いです。日常会話では問題ないですが、曖昧性をなくした正確な文章を書く際には使えません。
その結果、一見してくどくて難解な文章になります。でもその実、一語一語に意味があり、丁寧に作成されています。(そのはずです・・・)
なので、この道のプロである弁理士、特許事務所に依頼するわけです。
企業知財は主に書類チェック
このように、文書作成は特許事務所に依頼します。
なので、企業知財のやる事は下記になります。
・文書作成に必要な情報を提供すること
・作成された文書をチェックすること
作成自体は依頼しますが、責任は企業知財にあります。
なので、入念なチェックが必要なのですが・・・。何度も言っていますが正直時間がありません。
そのため、高い品質で書類を作ってくれる弁理士に頼みたくなるのです。
この人だったら大丈夫と信頼できる人に依頼したいのが本音です
外国出願
出願業務のトリは外国出願です。
ちなみに、実は日本出願→外国出願という順でなければいけない、ということはありません。別に、外国出願→日本出願という順でもOKです。ただ、母国語で書いた方が早いので日本出願→外国出願の順になるのが一般的です。
外国出願でやることは下記です。
・出願内容の見直し
・出願国の言語に翻訳
・現地代理人に現地特許庁へ出願を依頼
外国出願は見直しのラストチャンス
外国出願時に日本出願の内容に追加することができます。(今回は優先権とか細かい話は省きますので突っ込まないでくださいw)
この内容追加は外国出願の時がラストチャンスになります。外国出願後は変更することができません。なので追加したい事項がないか検討して盛り込みます。
この時の文書作成も特許事務所に依頼します。
翻訳も難易度高い
外国出願の内容が決まったら出願国の言語に翻訳します。
といっても自分ではやれませんので特許事務所や翻訳会社に依頼します。そして、自分たちは翻訳された書類をチェックすることになります。
ただ、英語の場合は、読解できますので確認していますが、その他の言語(例えば中国語)の場合は、サッパリ分かりませんので丸投げ信頼するしかありません。
外国出願では語学力がものを言うので身につけておいて損はありません。最低限、英語ができれば業界的には十分だと思います。
知財業界での英語の必要性については下記記事でも解説していますので、良かったら合わせてご覧ください。
あとがき
いいかがだったでしょうか。
今回は企業知財での出願業務について赤裸々にお話してみました。
とはいえ、上記はあくまで一例であり様々なやり方があるとは思いますが、一応スタンダードなのではないかなと思っています。
企業知財の仕事に興味がある方に少しでも参考になれば幸いです。
ではでは。
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