【AI担当弁理士が解説】知財業務はAIに代替されるのか?

おはこんばんちは。りってるです。

 

昨今AIがいたるところで取り上げられていますね。

過去にはAIに取って代わられる業務なんてものも発表されました。

その中には弁護士(法律業務という意味で弁理士も)の業務も入っていました。

 

じゃあ知財業務はお先真っ暗なのか?

 

私の意見としては、

・直近でも一部の業務の代替は確実

・他方で、中期的に見てもコア業務は代替は不可能

 

私はここ数年AI関連の知財業務にずっと取り組んできました。

その経験と知識に基づいて解説したいと思います。

 

 

 

 

目次

知財業務はAIに代替されるのか

 

2017年に下記のような衝撃的なニュースがありました。

 

出典:twitter記事

 

弁理士は92.1%も代替可能性があるという結果でした。

 

何も知らない人がこれを見れば・・・

「弁理士ヤバい!」

となりますよね。

 

この研究結果自体は様々な所から見直されていますが、根本的には自動化の波は迫っています。

下記記事でも指摘されています。

「AIが仕事を奪う」への疑問 いま、“本当に怖がるべきこと”は

 

じゃあやっぱり知財業界ヤバいんじゃ・・・

と思うかもしれません。

 

ですが、私個人としては、知財・弁理士は付加価値を出す業務でしっかり仕事ができていれば自動化・AIには代替されないと思っています。

理由は、今のAIの特性上、知財の付加価値業務を行うことが不可能だからです。

 

これを説明するには、AIと知財の付加価値業務をまずは知ってもらう必要があります。

順を追って解説します。

 

そもそもAIとは

 

そもそもAIとは何か?

正直細かい話をしているとそれだけで1記事になってしまうので簡単に解説します。
(ざっくり解説なので正確には違うな~と思っても温かく見守ってくださいw)

 

AI(Artificial Intelligence)の定義は広く、広義的にはコンピュータが計算することなら何でも入ってしまうので、ここでは第三次AIブームの中核であるディープラーニングについて取り上げます。

 

ディープラーニング

ディープラーニング(深層学習)は、ニューラルネットワークを使ったAIです。

 

ニューラルネットワークは、簡単に言うと人間の脳を模した構造のAIです。

人間の脳は、ニューロンとシナプスで構成されています。

そのニューロンをノード、シナプスをリンクで表現したものがニューラルネットワークです。

出典:wikipedia ニューラルネットワーク

 

図の丸いのがノード、ノード間をつないでいるのがリンクです。

左から入力したデータが流れてきて、右側に伝搬していき、最後に結果が出力されます。

 

このノードが多層に設けられたものがディープラーニングのAIです。

 

ディープラーニングの特徴

このディープラーニングの凄い所は「データの特徴を自動的に学習」できる点です。

 

それまでのAIは特徴をある程度事前に教えてあげる必要がありました。

例えば、猫の画像を認識する場合、目と耳と鼻があってその大きさや位置の特徴を事前に設定しておく必要がありました。

 

しかし、ディープラーニングの場合は、そういった特徴を事前に設定する必要はありません。

 

その代わりに大量のデータを学習に使います。

いろんな猫の画像を入力して、これは猫であるという教師データを与えます。

それによりディープラーニングAIは猫の特徴を学習します。

 

この辺りは下記記事が分かりやすいと思います。

ディープラーニングの基礎とマーケティングへの活用法を学べ!

 

また、書籍としては、下記の東大松尾先生の本が教養としておススメです。

「人工知能は人間を超えるか」(松尾豊 著)

 

AIでできること、できないこと

 

ディープラーニングは画期的な技術であることを解説しました。

 

しかし、そんなディープラーニングも万能ではありません。

 

今のAIでできること

ディープラーニングでは、自動的に特徴をとらえることができます。

これは様々な事象に適用できます。

 

例えば、工場での欠陥品の発見。

ディープラーニングAIを使ってカメラで撮った製品の画像を解析し、欠陥品であるかどうかを判断します。

事前に大量の製品の画像を使ってディープラーニングAIに学習させます。

 

これは既に実用化されて様々な企業がソリューションとして提供しています。

「AIを活用した外観検査」最新ソリューション&事例まとめ【2020年版】

 

特徴をとらえる、といった比較的汎用的な処理ができるようになったため、適用先がかなり広範囲になります。

 

今のAIでできないこと

他方で、ディープラーニングでできないことがあります。

できないこと、というよりはAIの特性かもしれません。

 

今のAIは、実は意味を理解しているわけではありません。

単に過去のデータに基づき確率的に推測しているだけです。

 

「はあ?どういう意味?」

という声が聞こえてきそうですね。

 

先ほどの猫の認識の事例で解説します。

 

人間は「目と耳と鼻があってそれぞれの位置関係が大体これくらいの物体が猫」というように画像に意味を持って解釈しています。

出典:【ディープラーニングの基礎知識】ビジネスパーソン向けにわかりやすく解説します

 

しかし、AIは「画像のピクセルの値の配列から確率的にこれは猫である」と判断しているだけなんです。

 

目や耳やふさふさの毛や可愛いな、みたいな意味合いは一切理解していません。

あくまでデータの値から確率的に判定しています。

 

なので、実は猫以外も判別するAIでは、

  • 猫の確率=90%
  • 犬の確率=40%
  • ネズミの確率=30%

みたいな計算をしていて、最も高い(あるいは閾値以上の)猫を結果として出力しています。

 

人間だと猫と犬を間違えませんし、明らかに猫なのに犬かもしれない、なんて思いませんよね。

でもAIではあくまで確率で結果を返します。

 

このように、今のAIではデータの意味を理解することができません。

しかも、過去のデータから確率的に答えを導き出しているだけです。

 

この辺りの話については、人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」のディレクタである新井紀子さんの下記書籍で分かりやすく面白く解説されていますので、良かったらどうぞ。

「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」(新井紀子 著)

 

 

知財の付加価値業務は今のAIでは不可能

 

ここまで長々とAIについて解説しましたが、ようやく知財の仕事の話です。

知財業務は多岐にわたるので、今回は権利化業務(発明を出願するところ)について解説します。

 

権利化業務は、大きく分けて、文書(明細書)の作成、調査、中間処理です。

 

明細書作成

明細書は、発明を説明するための書類です。

 

明細書作成は下記の2つの点で今のAIには向いていません。

・明細書作成は曖昧なものを明確化すること

・技術や法律は常に変化する

 

これらが知財での付加価値につながります。

 

明細書作成は曖昧なものを明確化すること

明細書作成は、単に文章を書くだけの仕事ではないです。

 

代筆屋と揶揄されることもありますが、それは明細書作成の仕事をしたことがない人の意見だと思います。

あるいは思考停止してクライアントの言う事をただ書いているだけの人を指すと思います。

 

発明というものは曖昧なものです。

もちろん具体的な物がある場合もありますが、その物のみを保護する権利を取っても狭い権利になってしまいます。

なので、その発明の本質を掴み、可能な限り広く権利が取れるように文章を考える必要があります。

 

この本質を掴むのに意味を理解する必要があります。

具体的には、発明のどの構成要素がどういう作用をもたらすのかです。

これは確率から推定できるものではありません。

 

技術や法律は常に変化する

また、特許を取り巻く技術や法律は常に変化しています。

この変化がAIにとって不利になります。

 

ディープラーニングには大量のデータが必要です。

 

確かに過去のデータは膨大にあります。

日本だけでも毎年数十万件の出願があります。

出典:特許庁 特許出願等統計速報

なので一見データは多そうに思えます。

 

しかし、技術や法律は常に変化するものです。

 

変化するということは過去のものは陳腐化することを意味します。

なので、過去の明細書が今でも最適とは限りません。

むしろ過去の書き方は推奨されないものとなる場合もあります。

法改正や新技術の登場により今までの常識が覆されることは度々あります。

 

このような変化に対応するために、常に明細書の在り方はアップデートされる必要があります。

 

しかし、最新のデータは数が多くありません。

なので学習用データが不足することになります。

 

データが不足するとディープラーニングは十分な学習ができません。

そのため、AIは性能を発揮することは難しくなります。

 

特許調査

特許調査は、検討中の発明と同じような文献がないか調べることです。

 

調査については、一部代替されると推測されます。

・発明の内容から調査仕様を定義するところは代替されない

・調査仕様から検索式を組み立てて検索するところは代替され得る

 

調査仕様定義

調査仕様定義とは、調査の対象を明確化し、調査範囲を決定することです。

 

調査対象を明確化することは、明細書作成における発明の内容を理解することに相当します。

上述したように今のAIでは不可能な仕事です。

 

なお、調査範囲の決定は、調査する国だったり、技術分野だったりするので、比較的容易です。

 

検索式作成と検索

これに対し、検索式の作成と検索は代替されることがほぼ確実です。

というか、既に代替され始めています。

 

検索式は、明確化した発明の内容に基づいて実際に文献を検索するための式になります。

検索ツールではこういった検索式を使うことが一般的です。

 

人が行う場合はある程度ツールの仕様や検索式の組み立てノウハウが必要になり、誰でも簡単にとはいきません。

 

ですが、ツールの仕様や検索式の組み立てノウハウは機械化しやすいという側面があります。

そのため、発明の内容をテキストで入力すると自動的に検索式が作成され、検索することができてしまいます。

例えば、Amplifiedといったサービスが既に提供されています。

 

中間処理

中間処理は、特許庁とのやり取りの業務です。

 

出願すると特許庁で審査され、審査結果が送られてきます。

大抵の場合、一発で特許とはならず、拒絶理由通知という形で審査結果が届きます。

 

この拒絶理由通知で記載されている特許にならない理由を理解して、適切に反論したり、権利化したい発明の内容を補正(修正)したりすることが求められます。

 

・拒絶理由通知を理解

・反論の検討と書類作成

この2つの業務は今のAIには難しいです。

 

拒絶理由通知を理解するには、読解力と解釈力が必要

審査官は事細かに説明をしてくれません。

 

かなり簡潔な文章で通知されます。

引用文献(出願前に公知な文献)の段落番号とキーワードしか書いてくれないこともあります。

それでも日本では昔よりかなり丁寧に説明してくれてますが・・・

 

なので、文章を読解するだけでなく、引用文献のどの箇所が出願のどの箇所に相当するのか解釈する必要が出てきます。

これは出願1つ1つで異なるので確率では解けません。

 

反論の検討と書類作成

拒絶理由通知を理解したら、反論を検討します。

 

反論は特許になる理由を述べて反論します。

また、必要に応じて出願書類(正確には特許請求の範囲)を反論に合わせて補正します。

 

これらも事案は出願ごとに異なります。

また、反論は審査基準に当てはめて行うことになります。

発明の内容を理解しそれを審査基準に合わせて反論内容を決めることになります。

 

なので、こちらも今のAIでは代替が難しいです。

 

結論

 

知財業務はAIに代替されるのか?

 

結論としては、

・知財において付加価値を出す業務でしっかり仕事ができていれば自動化・AIには代替されない

・他方で、調査検索式作成などの自動化可能な業務は代替される

でした。

 

なお、注意点としては、あくまで「今のAI」では代替不可能ということです。

 

ディープラーニングは第3次AIブームの技術と言われています。

これを超えるAI技術が来れば、間違いなく第4次AIブームが来ると思います。

 

その時はもしかしたら意味を理解するAIが誕生するかもしれません。

そうなると、今度は何で付加価値を出せるかが生き残れるかの分かれ目になると思います。

 

付加価値出せる人は弁理士・知財人として食べていけると思います。

下記記事で詳しく解説しているので良かったら合わせてご覧ください。

 

あとがき

今回はAIと知財業務について解説しました。

丁寧めに解説したので長文になってしまいました・・・。

AIだけでなく技術は日々進歩しています。

 

でも、概要をキャッチアップするだけでも無用に恐れることはなくなります。

逆に、知財人であれば難しい最新技術を理解するだけで他の人を一歩リードできます。

ポジティブにとらえて強みにしていきたいですよね。

 

この記事が何かの参考になれば幸いです。

ではでは。

 

 

2022年2月25日資格・知財業務技術,知財

Posted by りってる